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卸立てのスーツがひと晩でダメに!

私の所属してた部署はとにかく飲むことが仕事より好きな先輩方が多い

毎日のように部下を連れて飲み歩く まあストレスが溜まる職種でもあったのだが…

その日も天六の湯豆腐で有名な「上川屋」へ繰り出した

いつものように大賑わいである

湯豆腐もさることながら

でかい徳利で首に紐が巻いてあることからハチマキという熱燗が大人気だ

縄のれんをくぐってさっそく席をとったが

その席が悪かった 向いが部署一細かいことに厳しいM課長だわ

人は悪くはないがとにかく細かい事をいう 行儀作法 接待の仕方 先輩との

口のきき方 付き合い方など 酒が入るとなお酷く蘊蓄が延々と続く

まずは乾杯の掛け声で宴が始まった ハチマキが数本と名物の湯豆腐がざぁっと卓上に並ぶ

もちろんいの一番にM課長に注ぐのが礼儀 

「課長 どうぞ一献!」と徳利を突き出す

「あかんやん 徳利は片手で出すもんとちゃうよ 右手で首の部分を持って左手は落とさないように

底に手を添える そんなことも知らんのかいな」ほら来た、来た すぐやがな

即やな! この先どうなるんやろか

「さっ 一杯いこか、返杯やがな 」「一口で空けなあかんで」

「頂戴いたします」と酒 特に日本酒が苦手な私が でも仕方なく一気飲み

「さ、もう一杯や」

「え!またですか」

一回目の盃を空けて義理を果たせたと思ってた矢先の先制攻撃である

「ま、ええがな ええがな」いつもこれや これでやられるんやわ

新人の時の忘年会の悪夢が蘇ってきた

せっかくの美味しい料理や同期との楽しい会話もないままに

いつまでも課長の素晴らしいお話や訓示を聞かされ 話を一つ聞くと

注がれ また注がれでついに自分でもわかるくらいに天井が回ってきた

こりゃ だめだわ!! 周りの風景も朦朧としている

いつのまにか飲み会も終わったようだ

皆が出口にぞろぞろと向かっているのが見える

今朝 卸立ての紺のスーツを着て出社した

こんな飲み会があるんなら着てこなかった 突然決まったことなのである

嫁から「よく似合ってるね」と笑顔で送り出された代物である

朦朧とした意識の中で椅子の背やテーブルの端をつかみながら

恐る恐る出口にむかった  

来た時にくぐった繩のれんが見えた 

ごちそう様と手をかけた瞬間 思わず体が宙に浮いた

スローモーションみたく店の前の路上にたたきつけられた  

ほんまバカやな~てどこからか聞こえてきた

「大丈夫か」と皆が腕をとって気遣ってくれたが…

悲しいことにスーツのズボンの裾のとこが

無残にも鍵裂きに引き裂かれていた 

その時 嫁の顔が浮かんで そして消えた

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